空海の虚空蔵求聞持法とはマントラ瞑想

虚空蔵求聞持法とは?

虚空蔵求聞持法(こくうぞう-ぐもんじほう)という瞑想の仕方があります。これは日本に伝わっている瞑想です。

原始仏教と関係がないんじゃないの?と思われますが、原理的にはサマタ瞑想です。テーラーダに伝わる四十業処の一種(亜流)ともいえます。なので今回、取り上げてみることにしました。

「虚空蔵求聞持法」。
この瞑想を達成すると記憶力がよくなって博覧強記となると言われています。

そもそも虚空蔵菩薩(こくうぞうぼさつ)はアーカーシャガルバといって、知恵の菩薩といわれています。明星天子ともいわれているとか。

で、虚空蔵求聞持法は、この虚空蔵菩薩を本尊として、一定の所作にしたがって瞑想を行じることで、記憶力が超人的にアップし、博覧強記になるといわれている伝説の瞑想方法です。てか、実質、幻の瞑想方法になっています。

虚空蔵求聞持法は空海が修行したことで有名

虚空蔵求聞持法は、真言宗の開祖である空海が、若い頃に修行した瞑想としても有名です。

空海は若い頃は山林修行者だでした。吉野の山中や天河で修行し、後に四国の室戸岬で「虚空蔵求聞持法」を成就したといいます。

このことは空海の手記である「三教指帰(さんごうしいき)」にもあります。ちなみに三教指帰で空海は、

ここに一の沙門(修行者)あり。余に虚空蔵聞持法を呈す。その経に説く、若し人、法に依って此の真言一百万遍を誦すれば、即ち一切の教法の文義暗記するを得と。

ここに大聖(仏陀)の誠言を信じて飛焔を鑚燧に望み、阿國大瀧獄に登り禁(よ)じ、土州室戸岬に勤念す。谷、響を惜しまず。明星来影す。

と述べています。

虚空蔵求聞持法のやり方

虚空蔵求聞持法は、100日の間で虚空蔵菩薩の真言を100万遍唱え続ける荒行です。

虚空蔵菩薩の真言「ノウボウ・アキャシャ・ギャバヤ・オン・アリキャ・マリボリ・ソワカ」。これを100日で100万回唱えるわけですね。1日1万回です。

で、伝統的な次第では、密教の基本である十八道に沿って構築されているようです。

表白、神分、五悔、発願、勧請、道場観、閼伽、華座、五供、礼仏、本尊加持・・・といった様式ですね。

しかし重要なのは虚空蔵菩薩の真言を唱えることですね。現代においては、作法はあまり気にしなくていいと思います。

で、虚空蔵菩薩の真言は、一回唱えるのに2~3秒はかかります。3秒とした場合、

・1分間・・・20回
・1時間・・・1200回

1日1万回唱えるためには、約9時間かかるわけですね。毎日9時間、虚空蔵菩薩の真言を唱え続けるわけです。特別な環境が無いとなかなか難しいですね。

虚空蔵求聞持法は空海だけが体得したものではなかった

ちなみに虚空蔵求聞持法は、奈良時代に中国(唐)へわたった道慈(どうじ)と善議(ぜんぎ)が日本に伝えたといいます。中国で行われていた瞑想のようです。

で、日本に伝わってからは、吉野にある蘇我比寺(世尊寺)で、虚空蔵求聞持法は盛んに行われていたといいます。

空海は勤操(ごんそう)から伝授されたといいます。ちなみに勤操は善議から虚空蔵求聞持法を教わったといいます。

ですので、道慈(どうじ)⇒善議(ぜんぎ)⇒勤操(ごんそう)⇒空海という系譜があることがわかります。

なお奈良時代の法相宗・神叡と、平安初期の法相宗・護命も、吉野の蘇山比寺で「虚空蔵求聞持法」しているんですね。その後、空海が修しています。

空海の前に、何人ものの僧侶が虚空蔵求聞持法を体得しているんですね。

で、空海が修行していた「虚空蔵求聞持法」は、要するにマントラを使った禅定に至る瞑想です。

虚空蔵求聞持法とはマントラを使ったサマーディ瞑想

「虚空蔵求聞持法」とは、マントラを使ったサマーディ瞑想です。禅定に至ると、通力が得られることがあります。で、その通力の一つが記憶力がよくなるというものでしょう。これを虚空蔵求聞持法の功徳といっているんだと思います。

「三教指帰」に描かれている空海の話しは、話しを端折っていると思います。また尾ひれがついていて、瞑想の効果が誇大化されていると思います。

「虚空蔵求聞持法」そのものは、実際のところ飛鳥時代か、それ以前に中国道教(仙道)系から日本に輸入された瞑想じゃないかと思います。

そもそも中国道教(仙道)のルーツは、インド仏教(原始仏教)の瞑想です。中国ではアーナパーナサティ(安那般那念)をいち早く輸入し、不老長寿の法としています。

テーラワーダ仏教で行われているマントラ瞑想

実際、原始仏教が伝わるテーラワーダ仏教でも、マントラ瞑想は行われています。現代でもそうです。

20世紀のタイ仏教の比丘で、阿羅漢となったといわれているアーチャン・マハーブーワは、マントラ瞑想をしていました。「プッタ、プッタ、プッタ・・・」と一日中唱え続けて、深い禅定に至ったといいます。

虚空蔵求聞持法は、いろんな装飾物が付いていますが、本質はマントラ瞑想で禅定に至るやり方ですね。余計な飾りを落として、瞑想本来の姿に戻したほうがよいかと思います。

明けの明星はニミッタ

ちなみに虚空蔵求聞持法を成就すると「明けの明星」が現れるといいます。

空海は虚空蔵菩求問持法を修行し、これが完成したときに「明けの明星」が口の中に飛び込んできたといっています。

しかしこれはニミッタ(相似)のことでしょうね。

明けの明星をアジナーチャクラの光とする説もありますが、そうでなはいでしょう。明けの明星とは禅定修行をしている中で生じる光(ニミッタ)ですね。マントラを唱えていても生じます。

ニミッタもテーラワーダ仏教ではお馴染みです。たとえばミャンマーのパオ森林僧院で行われている瞑想修行では「ニミッタ」が生じることが第一関門なくらいです。

空海が言う「明けの明星」とは、ニミッタ(似相)のことでしょう。で、ニミッタが生じると「禅定」に入ることができます。で、このことを空海は大法成就と言っていたのでしょう。

また禅定に入ることができると特殊な能力が人によっては出てくるわけですね。記憶力増強も、その功徳の一つです。

で、禅定に入ったからといって、誰もが記憶力が良くなるとかでななく、この辺りの効能は人によって異なります。百人百様というのが本当のところでしょう。

虚空蔵求聞持法は禅定に至る瞑想の一つ

虚空蔵求聞持法は、虚空蔵菩薩真言を延々と唱え続けることで、ニミッタ(明星)が現れて、それに没入して禅定に入る瞑想です。

パオ森林僧院で行われている禅定と本質は同じです。清浄道論で説かれている業処ですね。

これがことさら大袈裟になっているのが、虚空蔵求聞持法でしょう。

昭和の時代では、某新興宗教の開祖が、これを体現したと豪語していましたが信憑性は疑わしく、虚空蔵求聞持法は謎に満ちています。

が、日本の山林修行には「虚空蔵求聞持法」というマントラ系のサマーディ瞑想が輸入されていて、当時、広く行われていた可能性があります。で、通力が、広く横行していた。

飛鳥時代、奈良時代は、病気治しなどのために、通力が世間一般に横行していた時代です。

そんな時代に中国から輸入された「虚空蔵求聞持法」。伝説や装飾がほどこされていますが、本質は禅定にいたる瞑想です。マントラ瞑想。

原始仏教、テーラワーダ仏教の文脈でみていくと、虚空蔵求聞持法の本質がわかると思います。